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ARTICLE · INTERVIEW · 2026.10

イチグスクモード 池城安武インタビュー

身近な八重山の中に、まだ誰も見つけていない宇宙がある


ギャラリーの作品の前で笑顔を見せる池城安武さん

島バナナ、コウモリ、八重山民謡「月ぬ美しゃ」、公園にたたずむパンダの遊具―。イチグスクモードの作品には、池城安武さんが石垣島の日常から見つけ出したモチーフが、鮮やかなシルクスクリーンで描かれています。

一度は故郷を離れ、沖縄本島やロンドンで暮らした池城さん。外の世界を知ったからこそ見えてきた八重山の姿を、独自の視点で表現してきました。

活動開始から15年。石垣島の中心部に構える「イチグスクガロウ」で、これまでの歩みや作品の背景、島で制作を続ける理由について伺いました。

デザインを作り続けて15年

イチグスクガロウの展示室で、ベンチに座って話す池城安武さんと村上あす美さん

―まず、イチグスクモードの活動について教えてください。

イチグスクモードという名前でデザインを作り始めたのが15年前です。グラフィックデザインをしながら、シルクスクリーンという技法で作品を作るようになりました。

最初の頃は作品だけで生活することができなかったので、デザインをTシャツに印刷したり、生地に印刷して洋服を作ったりしたのが始まりです。

―現在、730交差点そばのショップ「イチグスクモード」とゆいロード沿いのギャラリー「イチグスクガロウ」という二つの場所がありますね。

730交差点の石碑の隣にあるショップでは、主に洋服を販売しています。イチグスクガロウは作品を展示する場所であり、アトリエと製作所も兼ねています。僕もここでデザインの仕事をしていますし、半地下では生地を縫製して洋服を作っています。

ガロウは始めて3年目になります。普段は自分の作品を展示していますが、僕が好きな作家さんや、面白いと思った企画にスペースを使ってもらうこともあります。

「なぜ面白く見えるのか」を考える

パンダの作品を背に、身ぶりを交えて話す池城安武さん

―池城さんは琉球大学で、デザインとは異なる分野を専攻されていたそうですね。

法文学部人間科学科で、認知心理学を勉強していました。高校生の頃、絵を描くことと同じくらい心理学にも興味があったんです。

認知心理学では、例えば、なぜ丸は柔らかく感じて、三角はとがって感じるのかといった、人間の認知について考えます。本人は意識していないけれど、どこかで感じ取っているもの。そういうことに興味がありました。

―現在のデザインにもつながっているように感じます。

今も、何かを見て「面白い」「かっこいい」と思ったときに、なぜそう見えるんだろうと考えることが好きです。

今まで誰もやっていなかったことが、なぜ今はかっこよく見えるのか。反対に、今かっこいいとされているものが、50年前にはそう見えなかったかもしれない。昔のものが再び評価されることもあります。

時代や環境によって見え方は変わりますが、その中にも普遍的なものがあるのではないか。答えは分からないけれど、そういうことを考えるのが面白いんです。

額に入った池城安武さんの20代の頃の作品「頭が鳥のこども」
池城氏の20代の頃の作品「頭が鳥のこども―頭が鳥だからって、脳みそが鳥だと思うなよな」

ロンドンで出会ったアートとシルクスクリーン

―大学卒業後は、那覇の広告代理店を経てロンドンへ渡られています。

広告代理店には制作職を希望して入ったのですが、配属されたのは営業でした。やりたいこととは違うと感じ、当時は海外旅行にも夢中だったので、留学することにしました。

ロンドンでは語学学校に通いながら、ギャラリーやミュージアムを巡っていました。お金のない学生でも無料で作品を見られる場所がたくさんあり、街を歩けばバンクシーの新しい作品が突然現れる。友達と「あそこにバンクシーの作品ができたらしいよ」と話して探しに行くような生活が、とても楽しかったです。

僕は以前からアンディ・ウォーホルが好きだったのですが、現地で実際に作品を見て、ポップアートはやっぱりかっこいい、自分もやってみたいと思うようになりました。

大きな木が立ち並ぶロンドンの公園
ロンドンで好きだった公園。沖縄とは異なる木々の様子に驚いたそう。

―ロンドンでシルクスクリーンを学んだのですか。

いえ、シルクスクリーンを始めたのは日本に帰ってきてからです。YouTubeで海外の人が制作している動画を見ながら、作り方を調べました。

動画では露光にブラックライトを使っていましたが、石垣島では長いブラックライトが手に入らなかったので、普通の蛍光灯を使いました。材料もすべて島のホームセンターでそろえ、押し入れに入る大きさの器具を自分で作りました。

それから15年経ちますが、今も同じ器具、同じ方法で制作しています。ちなみに、その蛍光灯は15年間一度も切れていません(笑)。

島の外を見たことで、故郷の魅力に気づいた

花の作品と大きな絵画の前で、ベンチに座って話す池城安武さん

―作品には島バナナやコウモリ、「月ぬ美しゃ」など、八重山に根ざしたモチーフが数多く登場します。初めから故郷を表現しようと考えていたのでしょうか。

高校生まで石垣島で暮らしていましたが、当時は石垣のことをあまり好きではありませんでした。住んでいると、悪いところや嫌なところばかりが見えていたのかもしれません。

高校卒業後に沖縄本島へ出て、さらにロンドンなど外の世界で暮らしたことで、石垣がすごくよく見えるようになりました。一度離れたからこそ、故郷の魅力に気づいたんだと思います。

ただ、当時目にしていた沖縄や石垣を表現した商品には、あまり自分の感覚に合うものがありませんでした。観光地として分かりやすく見せるための石垣と、自分が感じている石垣が違っていたんです。

もっとこう見せたらかっこよくなるのに、自分にはこう見えているのに、と思っていました。それなら、自分なりの解釈で石垣を表現してみよう。そうして現在のシルクスクリーン作品につながっていきました。

石垣島にいるからこそ、作れるものがある

―モチーフはどのように見つけているのですか。

島バナナの作品は、アンディ・ウォーホルが手がけたヴェルヴェット・アンダーグラウンドのレコードジャケットへのオマージュです。

15年ほど前、展示会が迫っているのに出品する作品がなくて、どうしようかと自宅の庭で考えていました。そのとき目の前にあったバナナを見て、「これは柄にできる」と思ったんです。背景に描いているバナナも、実際に庭にあったものです。

その隣に展示しているコウモリの作品も、旧石垣氏庭園のフクギに、たくさんのコウモリがいることから生まれました。ある日ふと「コウモリも柄にできるな」と思いました。

島バナナとコウモリの作品を指して説明する池城安武さん

―パンダとパインを組み合わせた「パインダ」も印象的です。

新栄公園に、パンダの遊具が一つだけポツンとあるんです。僕には子どもが3人いるのですが、3人がその遊具の上で遊んでいる写真を見て、子どもが好きそうなデザインを作ってみようと思いました。耳をパインにして、モヒカンのようにしています。

パンダとパインを組み合わせた作品「パインダ」の前で話す池城安武さん

「月ぬ美しゃ」は、もともと民謡が好きで、いつか作品のテーマにしたいと思って作りました。

どれも身近にあるけれど、当たり前すぎて見過ごしていたものです。そこに「こういう見方をしたら面白い」と気づいたとき、作品にしています。

最近は、石垣や沖縄をテーマにできること自体、自分がここにいるからこその強みだと感じています。東京やニューヨークでモチーフを探したら、何万人ものデザイナーが同じものを見ています。その中でオリジナリティを出すのは難しい。

石垣島にいるから見つけられるもの、自分だから作れるものがある。作るからには二番煎じではなく、誰もやっていないことをやりたいと思っています。

島の制約が、ものづくりを深くする

―離島で制作することには、不便も多いのではないでしょうか。

本当に不便です。額縁を取り寄せるにも送料がかかりますし、シルクスクリーンのインクは航空便に載せられないので、船便で届くまで時間がかかります。

毎年、沖縄本島で開催される「沖展」にも出品していますが、大きな作品は輸送費がかなりかかります。それでも、自分の作品がほかの作家の作品と並んだときに、どう見えるのかを確かめたい。自分がどれだけできているのか、力を試す機会として、活動を始めた頃から年に一度は出品しています。

ベンチに並んで座り、話をする池城安武さんと村上あす美さん

洋服の生地を印刷するときも、島内でお願いできる場所を見つけられなかったので、それなら自分でやるしかないと思いました。それで大きな版を作り、卓球台の上で生地を印刷するようになりました。1メートル60センチほどの版を繰り返し使い、一度に20メートルほど印刷します。

自宅の2階という限られたスペースで、時間や経費にも制約があります。でも、その中でどう作るかを考えることが楽しいんです。

もし石垣島に生地を印刷してくれる会社があったら、自分で印刷しようとは思わなかったかもしれません。大きな版も作らず、これほどシルクスクリーンにはまっていなかったと思います。

不便だったからこそ、インクや印刷方法を何度も試し、自分のやり方にたどり着きました。島の制約が、今のものづくりを生んでくれた部分もあります。

自宅で長い生地にシルクスクリーンで柄を刷る池城安武さん
自宅でのシルクスクリーン制作。制約があったからこそ、今のやり方にたどり着いた。

手の届く場所にある「宇宙」を見つけたい

―活動15周年を迎え、ロンドンでのポップアップも予定されていますね。

20年前にロンドンへ留学していた頃の友人がお店をやっていて、そこでポップアップを開催します。

イチグスクモードを始めた頃は、「London Branchを作りたい」と思っていました。今は当時とは少し考え方も変わっていますが、20年前に暮らした場所へ、自分が石垣島で作ってきたものを持っていけるのは嬉しいです。

これから作りたいもののアイデアも、いつも考えています。「パンダのバンダナ」で「パンダナ」とか、「ほうれん草のほうれい線」とか、夜中に思いついてメモすることもあります。最近作った「TバックのTシャツ」も、以前のメモから生まれました。

ギャラリーのベンチで笑い合う池城安武さんと村上あす美さん

―最後に、池城さんにとって八重山とは何でしょうか。

僕にとって八重山は、宇宙です。

夜空を見上げて、ブラックホールがあるのかな、宇宙は広いなと思うように、手の届くような身近なものの中にも、まだ知らない世界が広がっています。

これからも、八重山の中にある宇宙を見つけていきたいと思っています。

ギャラリーで並んで立つ池城安武さんと村上あす美さん

※インタビューは2026年6月24日に行いました。ロンドンでのポップアップは、その後2026年7月17日から8月31日まで、moko made cafe(ロンドン)で開催されました。

池城安武